チャルメラ協奏曲
作曲者自身による解説です。
- 第1楽章
- しがないラーメン屋の劉さんが協奏曲ソリストに大抜擢!
- 「すごく簡単なソロだから」と譜面の読めない彼は、練習もせず本番のステージへ。最初の例の動機はばっちり。ところがソロに入ろうとしたとたん何故かピアノのソリストが堂々と弾きはじめるではないか!
- 出鼻をくじかれる劉さん。「ワタシそりすとアル!ナゼぴあのデシャバルカ?」
- それでも無理矢理チャルメラで割込む彼。
- 「ワタシ、ダマサレタアル!」
- 第2楽章
「魔法のオルゴール」
- 劉さんの営なむラーメン屋台に、ある寒い夜ひとりの老人がやってきた。
いらっしゃい、といつもどおり声をかけたものの、そのみすぼらしい身なりを見て彼が代金を払えないのではないかと劉さんはいぶかしんだ。
案の定チャーシューメンを平らげた老人は急に申し訳なさそうな顔をして、懐からちいさな何かを取り出した。「これを代金がわりに受け取ってもらえまいか?」
それは古びたオルゴールの木箱だった。劉さんは露骨にがっかりした。しかしここでなんだかんだと言い争うのも面倒だ。しかたなくオルゴールをもらっておくことにした。
老人は安心して満面の笑みをたたえながら夜の闇へと去っていった。
しかしそのオルゴールは思いもよらない魔法の機構をもっていた。木箱のふたを開いて旋律を歌いかけると、なんとそれを元に変奏を繰り広げるのだ。それはふたを閉じるまで延々と数百変奏もつづき、一度も同じ形はでてこないのである。最初のうち劉さんは屋台にオルゴールを置いてひとり楽しんだり、客に聞かせたりしていたが、いつしか変奏の仕組みに興味が湧いて、次にどんな曲想がくるのか予想してみたり、いくつかは譜面に書き留めたりして勉強するようになった。
あるとき劉さんはチャルメラのメロディを元に思い付く限りの変奏を書いて、魔法のオルゴールと勝負したいと考えた。自室の畳の上に木箱をポンと置き、ふたを開けて例のメロディを吹いて聞かせた。
変奏曲が始まった。劉さんは書いた譜面を前に腕組みして、自分が書いたものがでてくるのを待った。いくつかは似たものがあったが、そのどれもが比較にならないほど美しかった。劉さんはそのたびに感嘆の声をあげ、似た変奏の譜面をゴミ入れに捨てていった。第100変奏に到達したところで彼の譜面はすべてなくなり、それでもまだ容赦なくオルゴールの演奏は続いた。それは限り無く美しかった。
しだいに彼の中で憧れが醜い嫉妬に変貌しはじめた。
「どんな機構が入っているのだ?見つけてやる」
そして金づちとドライバーでついにばらばらに分解してしまったのである。
しかしなにもない。普通のオルゴールと何も変わりはないのだ。劉さんはふと我に返ってあわてて元に戻したが、バネやネジを何本か無くしてしまったいたためかゼンマイが少し弛んでしまっている。その銀色の輝きもなんだか色あせて見えた。
恐るおそるチャルメラを聞かせてやると、イ、ロ、嬰ハ、ホの4音による旋律を淋しく奏ではじめた。しかしそれは単純で無骨で、以前の輝きはいっこうに感じられなかった。テンポはしだいに遅くなり、旋律がひととおり終止したところで、カチッと何かが外れるような音がしてそれ以後2度とオルゴールは動くことがなかった。
その後、劉さんはいつものようにラーメン屋台をひっぱって暮らしたが、心の中にはいつもあの最後の旋律が響いていた。そしてこれだけは誰にも聴かせることなく死ぬまで胸の内にしまっておこうと思ったのだった。
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